



小豆島出身のプロレタリア文学の旗手・黒島伝治(1898~1943)の作品集。
撰者は善行堂・山本善行氏。
プロレタリア文学の作家ではありつつも、今回の作品集は風景や人物の機微をていねいに描いた短編が多く集まったアンソロジー。
今回選ばれた黒島伝治の短編は、土地の風土や方言を含んだ人々のことばづかいが活き活きとして、読み手のなかにある物語と現実との境界線を曖昧にしてくれる。冒頭の「瀬戸内海のスケッチ」の風景描写からも黒島伝治という作家のうまさが伝わってくる。
「砂糖泥棒」の作品に出てくる貧しい主人公が砂糖を自分の子どもに分け与える場面も印象的だ。決して感傷的なものに浸るわけではなく、物語で描かれている家族の生活が実感として伝わってくる。書き手の妙味というべきなのか、そう感じる。
「本をたずねて」の作品は個人的にも気に入った作品。肺を患う主人公が血を吐く文章から始まる。物語の入口から気が引けるところもあるが、妻のトミと失くした本を探しにいく場面の滑稽さが鮮やかで、いかにも人間臭い感じがめっちゃ良い。線路の土手で本をさがす2人がありありとして、何とも言えない親しみが湧いてくる。スパッ、スパッ、とキレの良い文章がこの作品中にもあって、黒島伝治が影響を受けた作家のひとりに志賀直哉がいるという話をなんとなく連想させる。
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以上は、主の所感